王とサーカス
2016-02-20


[画像]
王とサーカス(米澤穂信 著)東京創元社

 読みましたよ。変な題名のミステリーだけど。まあ、面白かった。

 現場はネパールの首都カトマンズ。実話を題材にした物語です。
 2001年6月1日に、カトマンズにある王宮で、国王や多数の王族が殺されるという事件が起こった(ナラヤンヒティ王宮事件)。
 
 犯人は王太子のディペンドラらしいということだが、彼は事件直後に自殺を図ったとかで危篤となり、三日後に死亡した。以後、現在まで真相は闇の中という実際にあった事件らしいです。
 (この事件は、当然、日本でも報道されたのでしょうが、何故か僕はこの小説を読むまで全く知らなかった。)

 小説は、別の用件でカトマンズに来ていたフリーの記者が偶然事件に遭遇し、これを取材する過程ででくわした、ある事件にどう対応していくのかというものです。

 ということで、表題の「王とサーカス」の「王」は、文字通り王宮事件そのもので、「サーカス」は、見世物の例えでしょうか。つまりは報道とは何か、何を何故報道するのか、報道の意義をどうとらえるか、を考えう上での表徴として併記したのでしょうか。

 さて、物語のほうでは、先日読んだ「さよなら妖精」に出てくる、当時高校生だった太刀洗万智さんが(この主人公の名前は、僕はどうも歌人の俵万智さんをイメージしてしまいますね)、大学を卒業し、新聞記者を経験し、フリーの記者になったばかりという、10年後の話です。なんとなく魅力的な感じはあったもののどうもはっきりしないキャラクターの彼女が、どのような女性として描かれているのかもこの小説を読む動機になっていましたが、どうやらそこらへんはまだ明確にはなっていないようです。
 ポーカーフェイスで冷たい感じの目をした、用心深く観察眼のするどい女性というだけで、体格や顔だちなど容姿がよくわからない。前作では武術の心得もあるようだったけどそこらへんも含めて、もっと魅力的なキャラにして欲しいなあ。

 「王とサーカス」という表題どおり、小説の舞台とテーマはとても大きくて深刻なんですが、ミステリーとしての仕掛けはやや小ぶりだが、作り過ぎかなという感じがします。それに犯人と動機は物語の途中で想像つくし、後で明らかになる伏線などもわざとらしい感じも受けます。

 外に面白い作品があった年なら、三誌でベストワンに選ばれるようなミステリーではないのではないかとも思う。

 ミステリー風味の面白い、けれどもまじめな物語小説というのが僕の評価ですが、読む価値はおおいにあると思いますよ。

 主人公太刀洗万智のその後の事件(短編6編)をまとめた「真実の10メートル手前 」も昨年末に出されているようなので、それも買ってもう少しだけこの主人公の物語を読んでみたいと思っています。

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
 powered by ASAHIネット